日本刀とはかくあるべき

馴染みのお客様に、若い頃相当やんちゃだった方がおられます。
それこそ暴力団事務所に出入りまでしておられました。
今は真面目にカタギで頑張っておられます。

そのお客様は、刀を単なる刃物としては見ておられません。

「この刀は私の魂です」

いつもそう言っておられまして、迷った時、悩み事がある時、心鎮めたい時に、そっと鞘から抜き放ち、静かに観賞されるのです。

刀から力を貰うのだそうです。

そんな正しい、理想的な刀の使い方をされるそのお客様が、ある時私の家(店)に、お譲りした刀と脇指を持って駆けつけられました。

「町井さん、私の刀と脇指、当分預かってもらえないかな?」

私「何かあったのですか?」

「昨日家庭内で喧嘩した時に思わず鞘に手をかけてしまった。本当に恥ずかしいことです。町井さんから譲って頂いた刀、日本の文化財、後世に残すことこそ私の役目なのに、魂である刀にこともあろうか手をかけてしまった… 私が再び刀を所持するに相応しい人格になるまで、どうかこの二振を預かってもらいたいのです。」

それ以来お客様の大小は私の店で保管させていただいております。

そしてお客様は、時折菓子折を手に見えられ、愛刀を眺めて帰られるのです。

思わず鞘に手をかけてしまう。それは褒められたことではありませんが、己を戒め、こうして大小を預けられるそのお客様、僕は素敵な方だと思っています。

愛刀を眺めて帰られる際、いつもきまって笑いながらこう言われます。

「町井さん、商品と間違えて売らんといてくださいよ。必ず迎えに来ますから。」

美術刀剣 刀心にはこのようなお客様も通われておられます。

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