模擬刀に時代物の金具を使わないでください

居合を嗜む方に見られるのが、手持ちの稽古用模擬刀に本歌の時代金具を使う人。

私が営む刀剣店「美術刀剣 刀心」でも、稀に時代物の縁頭や鐔を送って来られて、これで模擬刀を組んで欲しいと依頼されるのですが、後々のことを考えるとおやめになった方が良いです。

居合の修練は身体捌きを学ぶことが目的であり、鐔や縁頭、拵を自慢するためのものではありません。

上記も時代金具の使用をお薦めしない理由の一つですが、最も懸念されるのが、あなたがいなくなった後のことなのです。

金具の価値を知らないあなたの御家族は、あなたがいなくなった後、模擬刀を処分してしまうことでしょう。真剣なら骨董店や刀剣店に持ち込むでしょうが、模擬刀だとどうでしょう?

粗大ごみに捨ててしまう可能性が大いにあります。

あなたのエゴで添えられた時代物の刀装具は、模擬刀と共にスクラップされてしまいます。

これって我が国の貴重な文化財の損失と言えます。

 

また、居合の大会では、細工の見事な金工鐔を装着した刀や、豪華な蒔絵の拵など、時代物の拵に納められた刀を使う方が数多く見られます。

居合の大会は愛刀自慢、刀装具自慢、刀装自慢の場ではありません。普段の稽古でも同じです。稽古する場であって刀自慢の場ではないのです。本文を見失ってはいけません。

特に時代物の拵を使う人に私は言いたい。

「あなたは鞘を削ったり、割らない程腕達者なのですか?」

と。

巷に溢れる居合の高段者の鞘を見ると、殆どの方が鞘を削っています。

刀と違って鞘や拵というものは、木製品ですから壊れやすく、後世に残りにくいのです。今は江戸時代が終わってまだ150年程ですから、江戸時代の拵がまま残っていますが、これが200年、300年先になったらどうでしょうか?

下手くそな居合修練者のエゴによって、古い刀の拵は圧倒的に減ってしまうのではないかと危惧してやみません。

平安時代、鎌倉時代、南北朝時代、室町時代と、様々な時代がありましたが、現在私たちがその時代の拵を見ることができるのは、博物館や美術館、寺社仏閣程度です。江戸初期の拵すら殆ど巷では見かけることはできません。消耗したからです。

ですから、今は沢山残っているからと言っても、居合や武術稽古に、古い時代の拵は使わないでください。後世に残していきましょう。

居合の稽古は安価な模擬刀でじゅうぶんです。

事実、私は模擬刀で修練を積んできました。真剣ではなく、模擬刀だからこそ学べる術理もあるのです。真摯に居合を研鑽されている方は、現代刀か模擬刀でのお稽古を推奨致します。

あと、模擬刀メーカーは、木槌をふんだんに使って模擬刀を組み立てていきます。そのため立派な時代物の金具が傷物にされ、頭金具が凹んだり、頭金具に彫刻された人物の顔や、動物、草花が無残に潰されてしまったものを私は何個も見てきています。

柄が固く、中心がすんなり納まらない際に、木槌やゴムハンマーを使わざるを得ない場合は、絶対に柄頭の真ん中を叩いてはいけません。

柄頭に柔らかい布を重ね当てた上で、頭金具の角の方を叩くようにしてください。

 

このような、刀剣書籍に記されていない刀剣取扱作法を皆さんにお教えしたいと思うので、機会があれば取扱作法講習会などを企画したいと思います。

その際には是非ご参加ください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です