鞘の鯉口の良し悪しについて

先日、とあるお客様から、納品した刀を拵に移し替えてみたところ、鯉口が堅く容易に抜けない。拵として不良品だとのクレームを頂戴しました。これ、お客様の刀剣に関する完全な知識不足によるクレームです。折角の機会なので鯉口の良し悪しについて記述いたします。

 

刀の鞘は逆さに向けて軽く振っても抜け落ちない程締まっているものが良しとされます。

度重なる出し入れによって鯉口が磨耗することを考慮し、かなりきつく、出来上がった当初ははばきが鯉口から5ミリ程出てしまい納まりきらない(無理に押し込めば入りますが今度は抜くのが大変)ものもあり、長年出し入れを行うことで磨耗し、いずれぴったりと納まるように作る職人もいるわけです。

特に江戸時代、忠臣蔵で知られる松の廊下事件他、城内においての刃傷沙汰が数件有り、そのため刀を抜けないように、小柄を抜かないと刀身を抜くことができない等、鞘にカラクリをつけた拵すら誕生しています。
それほどに昔の侍達は刀が簡単に鞘から抜けてしまうことを恐れたわけです。

出来上がったばかりで鯉口がとても固い状態のものも含め、しっかりとした鯉口を持つ外装に納められた刀を腰に帯びる身辺警護の士達は、予め軽く鯉口を切って抜刀しやすい状態で帯刀していました。

桜田門外の変において井伊家の士達が襲撃に対応できなかった要因が、当日雪のためいつも通りに鯉口を切って帯刀せず、完全に鞘に納め、更に雪から拵を守るため、柄に柄袋を被せていたことであるのは有名ですね。

 

尚、鯉口が緩くなった場合、薄い木片を鯉口内部に貼って修復しますが、この時によく行われる間違った修理方法が、鯉口の左右に木片を貼ること。これを行いますと鞘が割れますので絶対に行わないで下さい。木片ははばき袋の上下に貼らないといけません。この機会に是非覚えて下さい。

 

写真は私が長年愛用している刀の鯉口です。磨耗はあれど削れが一切無い健全な状態。居合人はこの鯉口を目指さなければ上達はしません。

居合形稽古に使用している愛刀の鯉口

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