12月 2020のアーカイブ
摂州大坂住吉重 ~柄新調済~
町井勲、町井竣哉 親子対決
濃州住亮信作
助宗
無銘
絶対にしないで!! ~鐔鳴りを切羽の加算で抑える間違った方法~
私はこれまで多くの刀を見てきました。
同業者の市場に並ぶ刀、お客様ご所有の刀等色々です。
そんな経眼してきた刀の中、とりわけ多いのが居合を嗜む人による目釘穴や柄の損傷なのです。
刀を振ると鐔が動いてカチャカチャと音が鳴る事を“鐔鳴り”と称します。
鐔鳴りがする状態を放置していると、鐔が動く度に刀の茎(なかご)が摩耗し、鐔を装着している部分が細くなってしまいます。(※下写真参照)
実用面からも、保存の観点からも、鐔鳴りは早々に直した方が良いです。
鐔のガタツキを直すには“責金(せめがね)”と呼ばれる工作を行います。
この鐔の刀の茎を通す穴の上下に、素銅(銅)が嵌め込まれています。これが責金です。
刀剣保存の観点から言うと、鐔の茎穴は刀の茎にピッタリに削るのではなく、気持ち一周り大きく削り、上下に責金を噛ませるのが最上です。
刀の銘には鏨枕(たがねまくら)と呼ばれる、銘を切った際に文字の周りが盛り上がった部分があるのですが、少しでも健全に刀剣を保存したい人は、鐔の装着時に鐔が擦れることによって、この鏨枕が削れてしまうことを忌み嫌うのです。
刀剣が今の時代、拵に納められず白鞘に納めて保存する理由には、このように茎の鏨枕を守るためと言うのも含まれています。
特に小柄が装着されている拵の場合は、更に早急なる責金補修が必要です。何故なら鐔が定められた位置に固定されていないため、小柄袋を傷めてしまうからです。
上の小柄袋の先端をご覧ください。鐔が当たったために変形をきたしています。
また、鐔が正しく固定されていない場合、鐔に施された各種彫刻が損なわれてしまうこともあります。切羽台の際に容彫で象嵌された花や人物、動物など、折角の良い仕事が鐔がずれている状態で組み立てられることにより、切羽と縁金具に押し潰されてしまうのです。
さて、居合を嗜む人の多くは、居合を健康のためや侍に憧れてといった動機で嗜まれている方が多いため、刀剣の知識に乏しい方が殆どで、指導する側の道場や先生方も、居合に関する知識はあっても、刀剣の作法については素人であることが多いです。
事実、私が英信流を学んでいた頃の師である故、吉岡早龍師も刀剣作法に関してはずぶの素人でした。
鐔鳴りがする刀に対してどのような方法で鐔鳴りを解決するかと言いますと、切羽を一枚加算するという手法。鐔に圧力をかけることで鐔鳴りをし辛くするわけですが、これは絶対にしてはいけません。
刀の目釘穴と柄の目釘穴はぴったりと合致するように造られています。そこへ仮に厚さ1ミリの切羽を加算したとしましょう。すると刀の目釘穴と柄の目釘穴との間に1ミリのズレが生じることになります。
両者の目釘穴が合致していない状態で目釘を無理矢理叩き込みますと、柄の目釘穴は差し込む側は広がって間延びし、抜ける側の目釘穴は目釘の一部が柄下地に当たるため正しく目釘が装着できず危険です。それでも尚無理矢理に目釘を叩きこめば、柄下地が割れてしまうのです。
当然ながら茎にピッタリと合わせて掻き入れされている柄木に、切羽一枚分浮いた状態で茎が納められることになりますので、この状態で刀を振ると、柄の中で茎が踊って柄木に負担がかかり、今度は切羽を抜いた状態で納めても、柄の中で刀身が遊んでしまうガバガバ状態になってしまい、もはや柄としての用をなさなくなってしまいます。
↑鐔鳴りを切羽加算によって解決しようとした結果、目釘穴が広がってしまった時代物の拵の柄
これでは不安ですので美術刀剣刀心にて柄を新調しました。
柄の目釘穴と刀身の目釘穴が気持ち良く合致しています。
鐔鳴りは絶対に切羽の加算で対処しようとせず、専門の職方に依頼して鐔に正しく責金を施してください。(※責金を行っても、使い続けているうちに再び鐔鳴りは発生しますので、その時には再び責金を施して下さい。)
責金は概ね5千円~1万円程です。
たったそれだけの金額をケチッたがために無残に壊された柄は数知れず。
「私居合を嗜んでおります。」 と言うのでしたら、せめて最低限の刀剣知識も持ち合わせたいものですよね。
どうしても責金を施す予算がないという方は、鐔と茎との隙間に竹片や木片を詰めると良いでしょう。ホームセンターで入手できるグルーガンを使って、鐔の茎穴の上下に樹脂で責金をされても良いでしょう。
このグル―ガンでの簡易責金を私が提唱したところ、藁斬り抜刀斎と名乗るユーチューバーがとんでもない勘違いをし、直接グル―ガンで茎と鐔を接着する方法をユーチューブに動画で紹介していましたが、これは感心できない行為ですので真似はしないでください。
我が国の刀剣類は貴重な文化財です。正しい知識の下で正しく刀剣を扱い、楽しみ、健全な状態で次の時代に橋渡しできるよう、どうか皆様も御協力ください。