試斬に関する勘違い

勘違い

先日、ツイッター及びユーチューブに於いて、右袈裟に切った畳表仮標の上部が落ちずに残る動画が、会心の一撃かのように紹介されていました。

試斬ばかりを稽古している抜刀道の人の中ですら、このように上部が残ることを会心の一撃や物凄いことだと誤認されている方が多いです。

日頃試斬に明け暮れる人ですら勘違いしているのですから、何も知らない素人は尚更この現象を見て「凄い!!」と思ってしまうわけですが、実はこれ、凄くもなんともないことであり、むしろヘタクソな証拠なのです。

稲藁や麦藁などを束ねて作った仮標相手だと、写真のような現象は比較的多く見られますが、横糸を入れて編み上げた畳表仮標では、正しく刃筋を通して斬る事が出来たなら絶対に起きない現象であることを、今回の記事で皆様には知って頂きたく思います。

藺草でも畳表のように編み上げていないもの、つまり繊維を束ねただけのものでしたら写真の現象は起こりやすくなります。

つまり、編み上げていない仮標は切り口の断面が広がり、それによって下部とのひっかかりが生じるために上部が滑り落ちる事無く残るというわけです。

一方、編み上げた畳表の場合ですと、切り口断面は鉋をかけたようにつるつるに近く、そのため切った上部は下部にひっかかることなく下に落ちてしまいます。

とかく武術・武道と呼ばれる世界には、誤認、勘違い、自惚れが横行するもの。

写真のような現象が起きたときには、ただただ己の技量の拙さを反省すべきなのです。

そして、殺陣は殺陣であり武術ではないこともしっかりと皆様にはお知り頂きたく思います。

あらゆる事態を想定して稽古するのは良いとしても、あらゆる事態を形として残すということを先人達はしていません。

あらゆる事態に備えて稽古するのが基本となる形であり、それを各々で応用して実践するのが武術ではないでしょうか?

相手との立ち位置、腕や足の角度が一度違っただけでも、形通りの動きでは業は成立しません。それらを事細かく形として残していたなら、角度についてだけでも360度あるわけですから、同じ所作を基本にした形でも、360通りの形が存在することになります。

系譜が正しく証明されている古流派をご覧になれば、形の数はさほど多くないことにお気づきになられるはずです。