鐔に見る刀傷

あちこちに深い刀傷が残る鐔を手に入れました。
本来ですと丸いはずの鐔なのですが、切込み傷がある部分は凹んで変形しています。
よくよく見ると切込み傷だけではなく、相手の鐔と激しくぶつかった痕跡も見られ、激しい鐔迫り合いが行われた様子が想像されます。

 

この鐔が製作されたのは江戸中期以降でしょうか。材質は山銅でしょうか。よく見かける図柄で、鋳物師と呼ばれる集団が手掛けたものです。
鋳物の材料としては、鉄の他に山銅、青銅、錫の合金などが使われており、鋳物師と呼ばれた彼らの本業は、鍋や釜、仏具や梵鐘の製作であったと言います。
強度も耐久性も無く、実用には向かないと言われていますが、この鐔を見る限りでは充分に実戦に耐えうることが解ります。但し、材料が鉄の物に関しては、叩いただけ、落としただけで割れた物も経眼しているため、実用に向くのはこうした鉄以外の材料に限るのかもしれません。

因みに刀傷がある刀剣や刀装具はたまに見られますが、実はその殆どが己の武勲を誇示するために後から付けられたまがいものが殆どで、実戦で付いた刀傷とは一見して判別できます。偽物造りに用いられては困りますのでここでその見分け方は割愛させて頂きますが、真剣で打ち合ったことがある方ならお解りでしょう。

 

耳の部分に見られる切込み傷と、鐔迫の際に相手の鐔で凹んだと思しき凹み傷が多々見られます。

 

この横向きに入った刀傷が一番深く、戦闘の激しさを物語っています。
時代的に恐らく幕末の騒乱期に付いたものではないでしょうか。

どのような士がどのように戦ったのか、とても興味深い一枚です。

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