車のバンパーは、衝突の際に車本体や搭乗者を守るためにあります。
しかし、だからと言って無駄にバンパーを擦る人、当てる人は居ない。刀の鐺や石突金具も同じです。
現代人がバンパーを擦っただけで滅入るのと同じく、士達は鞘や鐺に傷がついたら滅入っていたはずです。
私が今から20年程前に、共に居合を修業していた友人とこのような会話をしたことがあります。
私「甲冑って高いやん? 新調した甲冑着て戦出てさぁ、相手に切り込まれたりして兜や鎧に傷がついたらどう思う?」
友人「そりゃぁ許されへんなぁ。弁償しろって思うし、弁償してもらえない戦の場やったら、絶対こいつ殺したる!って思うなぁ。」
人間なんてそんなものです。
秀吉が戦国時代までは単なる武器でしかなかった刀剣に、美術的な価値を認めさせた頃から、刀はただの刃物ではなくなりました。
士分の象徴であり、武士の魂にまで昇華したのです。
あなたが頑張って貯めたお金、もしくはローンを組んで最高級のベンツを買ったとしましょう。
バンパーは障害物に当っても車本体を守るためにある物だから…
バンパーは傷ついて当然のものだから…
そう言いながら笑ってバンパーを擦れますか?
刀も全く同じです。
今の時代の安価なカシュー塗とは違うのです。
本漆で鞘塗りを依頼したことがある人なら解るでしょう。
安いところに頼んでも、鞘塗りだけで10万円程が消えて行きます。
それだけのお金をかけた鞘に、自ら傷をつけるようなことをするでしょうか?
湯水のように使えるお金を持っている人は論外ですが、一般人の感覚ではできないものです。
重ねて言います。
刀も車のバンパーと同じです。