貴重な歴史的遺産の逸失…

もう、かれこれ十八年程前になるでしょうか。

剣道十段であった小川金之助先生のお孫さん(当時70歳を越えていたかも)から、刀を三振お譲り頂きました。本当は小川家で受け継いでいきたかったそうなのですが、娘さん二人だけなので、きっと持て余してしまうだろう。錆びさせてしまうくらいなら、大切に伝えてくれる人に託したいとのことで、私がよほどのことがない限りは手放す事無く、町井家で伝え遺して行くことをお約束しました。

他にも軍刀拵入りの刀が二点、白鞘入りの刀が一点残っていたのですが、この軍刀は祖父と父の形見なので、もう暫く手元に置いておきますとのこと。いずれ遺品整理を行う段階になったら、町井さんにお譲りしますからね。とお約束いただいていました。

いよいよ米軍が本土に攻め入って来た時には、この刀で米兵と戦う! そんな覚悟で小川金之助先生が自身の軍刀に仕込まれたのは、大磨上無銘の兼光或いはその一門と思しき大名刀でした。鑑定書はついていませんでしたが、重要刀剣はゆうに一発で合格するであろう出来の良い名作。金之助先生の御子息の軍刀は在銘の古い刀でしたが、その銘は失念してしまいました。

毎年年賀状を出していたのですが、筆不精とのことで一度もお返事が返ってきたことはありませんでした。ご家族からの訃報もありませんでしたので、今も長寿でご健在であろうと思い込んでいました。

金之助先生の軍刀、そろそろお譲りいただけないものかと思い、もうかなりのご高齢でしょうから、ひょっとしたら… と、嫌な勘が働き、書留で軍刀のことをお尋ねする手紙を差し上げたところ、御家族から本日返信が届きました。

平成23年5月に他界…

刀剣譲渡の口約については知らされていなかったため、全て処分してしまったとのことでした…

登録証が交付されていた刀剣類なので、骨董屋に引き取ってもらったものと思いますが、もし、警察に廃棄処分の手続きをされていたら…

仮に骨董屋を経由して刀剣界に流れていたとしても、刀剣商は軍刀拵を外し、白鞘に納めて転売してしまうことでしょう。

あの名刀は、あの軍刀拵に納まっているからこそ価値があるのです。

剣道十段、小川金之助先生が実戦に備えて選択された名刀。まさに武家目利きによって軍刀に誂えられた名刀。

日本武術史、武道史に於いてこれほど資料価値が高い名刀はないと私は思っています。それだけにその名刀が拵と離されてしまった可能性が高い事実に、ただただ残念極まりなく思うのです。

私が小川さんからの御連絡を待たずに、失礼を省みず、頻繫に譲渡催促の連絡を差し上げていれば、あの二振の軍刀を、他の小川金之助先生遺愛刀と共に、後世に伝え遺すことができたかもしれないと思うと、後悔の念に絶えません…

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