一昔前は、刀剣を購入しようと思えば刀剣店で買ったものですが、近頃ではインターネットオークションを利用して購入される方も随分と増えました。
気軽に購入でき、しかも刀剣店より安く買えることができるメリットがある一方で、デメリットもあることを御存知でしょうか?
刀剣ネットオークションの最大の罪…
それは刀剣の価値を著しく落としたことと言えるでしょう。
今日はネットオークションを利用して刀を購入された方々の失敗例を御紹介致します。
・鑑定書が偽造されたものだった。刀剣の伝来や銘が偽物だった。
この場合、冷たいようですが欲に目が眩んだ結果が招いたこと。自業自得と言えましょう。勿論偽鑑定書を作った人が一番悪いのですが、村正や清麿、虎徹や正宗、そんな誰もが知る名刀が一般市場価格より安く買えるはずがないのです。
清麿と銘が切られた偽物を90万円で落札。偽銘だったと出品者に悪い評価をつけるあさましい態度。私はこう言う落札者(刀剣趣味人)を好きにはなれませんね。
でも、この場合はまだマシです。鑑定書や銘が偽物であったとしても、刀自体は真剣なのですから。
・偽造登録証だった。
ネットオークションで一番痛いのがこれです。
登録証が偽造されたものだった場合、公文書偽造に当たりますから必ずと言ってよい程警察が介入します。購入した刀剣は公文書偽造の証拠物件として押収され、手元に戻ってこないケースもあります。仮に運良く新規登録が許され戻ってきたとしても、押収されている間に、警察や検察によって、一部分にグラインダーをかけられたり、指紋で錆びさせられたりすることも…
上記の他にこんなデメリットもあります。
これはつい最近私が営む刀剣店「刀心」で実際にあったことですが、とあるお客様が刀心の商品を気に入られ、所有する刀と脇指を下取りに出して15万円の追金で譲ってもらえないかとご相談されました。
お客様が欲しがった刀は、南北朝時代末期の名刀で特別保存刀剣鑑定書が交付されたもの。一方お客様が下取りに出そうとされた刀は室町初期の名刀でこれも特別保存刀剣鑑定書付き。脇指も著名新刀で保存刀剣鑑定書が交付された品でした。
お客様がご提示くださった追金でお譲りすることを検討する上において、私はお客様の刀の履歴を念のためインターネットで調べました。
するとインターネットオークションで30数万円で落札された品であることが判明したので、私はお客様に追金は最低でも40万円頂かないとお譲りできないことをお伝えしました。
どういうことかご理解頂けますか?
お客様の刀は正規市場価格ですと60万円は下らない品ですが、インターネット上で30数万円で落札された履歴が残っている限り、市場価値はもう60万円ではないわけです。この刀が再び60万円の価値に戻るには、5年、10年と寝かせ、インターネット上で30数万円で取引された履歴が消えた時です。
刀剣趣味人の多くは、私と同じように過去の経歴を調べることが多いようです。そうなると、刀心でその刀を60万円の価値があるからと60万円で販売掲載した場合、
「ネットオークションで30数万円だった刀を60万で売っている。どれだけ利幅をのせているのか? ぼったくりじゃないか?」
と一部の人々から悪評が立てられるわけです。
勿論、60万円の価値ある刀を60万円で販売するのですから、ぼったくりでもなんでもないので、むしろ上記のような邪な発言をする人の方がおかしいのですが、悲しいかなそう言った言葉がネットの掲示板で流布されるのが今の時代なのですよね。
ですから私の店に限らず、他の刀剣店でも過去のネット履歴は重視し、刀剣業者が集う市場に於いても、
「ネット一切出てません。」
の一言で落札価格が随分と変わるのです。
ネットオークションで刀剣を購入する場合は、最低5年以上その刀剣を所蔵する気持ちがあればお買い得かもしれませんが、頻繁に買い替える方の場合は損失が大きくなるということを覚えておいてください。
刀剣の価格は常に変動します。かつて100万円の価値だったものが、150万円になることもあれば70万円に値下がりすることもあります。
刀心ではお客様がご購入された刀剣が、買い替えや売却される際にその足を引っ張らぬよう、過去の販売記録が残らないように配慮し、SNSやこのブログで商品を紹介する際には価格を伏せた画像を掲載している次第です。
これは他の心ある刀剣店でも行っているようで、売却した後は速やかに価格を伏せ、販売した履歴は残しても、販売価格の履歴は残さないようにしています。
先日ツイッターで藤安将平刀匠が下のように呟いておられました。
「刀はお店を構えている刀屋さんで求めることをおすすめします。きちんとした刀屋さんから買うのがきちんとした勉強の近道です。そしてそれが王道です。」
私もこのご意見には賛同です。