兼則 昭和十八年十月 ~陸軍耐錆鋼刀~

兼則 昭和十八年十月 ~陸軍耐錆鋼刀~
兼則 昭和十八年十月
– Kanenori –
http://nihontou.jp/choice03/toukenkobugu/katana/694/00.html

過酷な前線に携行される日本刀は錆に悩まされた。その為、軍刀の手入れ法に関する指導書が、刀剣専門家と称する人により出版されている。然し、敵と対峙する戦闘行動下で、軍刀手入れの時間的余裕がある筈がない。床の間に飾られた鑑賞用日本刀の感覚で軍刀の手入れ法を説く銃後の斯界(しかい)の関係者の感覚自体が、所詮(しょせん)ナンセンスであった。こうした状況を反映して「錆ない軍刀」が求められるのは必然の成り行きだった。成瀬氏の記述にも「流行のステンレス刀(銘:兼永)」との記述があることから、かなり普及していたことが実証される。海上の塩害に晒される海軍では、更に問題は深刻だった。

陸軍呼称: 耐錆鋼刀
炭素鋼の日本刀とステンレス刀の切味比較の論評があるが、軍刀の使用環境すら念頭にない幼児の戯言である。本来、劣悪な環境で使う実用刀にとって、刀身の錆は切味などを論じる以前の深刻な問題である。雨や塩害で直ぐに錆びる日本刀と、防錆手入れ不用のステンレス刀のどちらが実用的かがハッキリしていた。切味等は二の次、三の次ぎの問題だった。陸軍は、劣悪な前線環境での日本刀の錆や血刀の錆に悩まされた。こうした背景からステンレス刀が普及した。ステンレスとは、錆難い (Stainless) 鋼 (Steel) のことで、普通炭素鋼にクロム(Cr)やニッケル(Ni)を含有させた合金である。一般的には、クロムを約11%以上含有させた鋼をステンレス鋼と定義する。これは、クロムが約11%以上になると、錆難さ(耐蝕性)が飛躍的に向上する性質がある為である。クロムやニッケルの配合と金属組織に依って四種のステンレス鋼がある。
① マルテンサイト系ステンレス: 13%Cr-0.3%C 焼入れ後の硬さが高い鋼種。刃物、刀剣用などに用いられる。
② フェライト系ステンレス: 16%以上のクロムを含有。フェライト組織の為、焼入効果無し。
③ オーステナイト系ステンレス: 18-8(18%Cr-8%Ni)に代表される一般的なステンレス鋼。元素配分量によって多種の鋼がある。
④ 析出硬化系ステンレス: 17%Cr-7%Ni-1%Al  アルミ(Al)の添加で析出硬化性をもたせる。各種バネ部品。この内、刀剣用には主としてマルテンサイト系ステンレス鋼が使われる。
上記「軍刀サイト」より転載

一般的に耐錆鋼刀としては兼永が有名ですが、本刀は陸軍受命刀工であった小島太郎(刀工銘兼則)による耐錆鋼刀です。ステンレス鋼材としては上述にあるフェライト系ステンレスに該当するのか、丸焼きの刀身につき、通常の日本刀のような匂口はありません。よって刃文写真は割愛致します。中心には名古屋工廠の「名」刻印が見られます。

附属する九八式軍刀は石目塗りの鉄鞘で、保存状態も良く、石突金具(鐺)の桜花もしっかりと残っています。指表柄頭に見られる凹みのようなものは工廠刻印で、地鉄の石目模様が邪魔をして判然としませんが、「東」或いは壽屋商店の刻印のように見受けられます。

耐錆鋼(陸軍呼称)や不銹鋼(海軍呼称)製の刀身は、登録対象外とされるため、本刀のように登録証が交付されることは稀有であり、そのため軍装趣味人にとっては垂涎の品で、プレミア価格として高値で売買されます。完全オリジナルの軍刀拵が附属しての今回の価格提示は非常にお安く、お値打ちです。
ステンレス刀の研磨を嫌がる研師が多いですが、当店では各種軍刀に敬意を示し、あらゆる軍刀も研磨致しますので、希少な本ステンレス刀を是非研磨依頼なさってください。横手をピシッと立てた状研磨仕上げにて最高の研磨を誠心誠意工作させていただきますのでお気軽に御相談下さい。

裸身重量782グラム。  拵に納めて鞘を払った重量1,128.5グラム。