使い手は作り手の心を知るべし

私が全居連他、各連盟に所属していた頃、演武大会のみならず、日頃の稽古の場に於いても常に目に付いたのが、刀をぞんざいに扱う人が多いことです。

御本人は大切に扱っているつもりなのかもしれません。しかし愛刀家目線から言えば、無礼千万な扱いがとにかく多いのです。

居合の稽古で真剣を扱っている方の殆どが、一時間あるいは二時間の稽古中、油を引きなおすことを殆どされません。稽古前と稽古後に申し訳程度に油を引き、鞘を引っくり返してトントンと鞘の中の削りカスを出す姿のみが見られます。

以前にも書きましたが、私が居合の形稽古で真剣を使っていた頃は、形を二本から三本抜いたら、必ず油を引きなおしていました。そのため私の刀には錆はありませんでしたが、先輩や後輩、そして館長の刀はと言えば、棟に多くの錆が見られるのです。

私は居合で真剣を扱う方全てに言いたい。

一度ご自身で刀を研いでみろと。

勿論本当に自身で研磨されるような愚行をされてはいけませんよ。私が言いたいのは、たった一振の刀を研磨するのに、どれだけの労力と時間がかかるか、どれだけの技術を要するかということ。

私は自身でも刀を研ぎますので、研ぐ側の苦労は本当によく解ります。

精魂込めて研ぎあげた刀をぞんざいに扱われる程、研ぐ側として悲しく虚しいものはありません。

小さなヒケ一つ残さぬよう磨き上げた刀に、ヒケ傷をつけられた時の悔しさと言えば言葉にならないものです。

当然ながら逆のことも言えるわけで、作り手は使い手のことを考えて誠心誠意の仕事をしなければなりません。当たり前のことなのですが、今の時代、この当たり前が欠如しています。

柄巻きに預けた刀が戻ってきて、逆目貫(目貫の表裏が逆)になっていたことがありました。勝負事に使う刀のことですから、古の士は目貫の向き一つですら拘ったものです。逆目貫は敵に対して逃げになってしまい、縁起が悪い。当然私もこのような柄巻きではお客様にお納めできないと、柄巻師に返送し、正しい目貫の方向で巻き直してもらったのですが…

再び届いた柄には、新たな請求書が同封されていて絶句しました。

柄巻師当人のミスで納期が遅れたにも関わらず、二回巻いたのだから二回分請求って…

そういう職人さんとは二度とお付き合いは致しませんし、何よりも、大切な刀を預ける気持ちにすらなりません。

でもね…

今の時代、このような職人とも呼びたくない職人が増えました…

これも時代の流れということでしょうか… 目貫の表裏を指定しないこちらに非がある扱いをされてしまいます。悲しいことです。