正確さを磨く ~抜付の初太刀~

昨夜の大阪北道場定例稽古から

抜付の正確さを養う稽古です。

正面に座す者の視力を初太刀で奪うという修心流居合術兵法(無双直伝英信流町井派)の形想定に従い、巻いた畳表の上に直径3センチ程に丸めたティッシュペーパーを置き、それを正確に抜付で斬りつけるというもの。

単にティッシュを落とせば良いというものではなく、確実に狙いが定まっているかをティッシュの飛び方、落ち方、落ちる方向などから精査していきます。

畳表は高さ90センチ程、己と同じ背丈の人間の目線の高さはこれより10~15㎝程高くなるのですが、相手は常に己と同じ背丈とは限りませんので、様々な高さに対応できなければなりません。そう言った意味でもいつもよりやや低めの仮標に斬り込むことは良い稽古になります。

この動画の中では 01:26 と 01:44 あたりの抜付が自己評価としては良い方で、両者で言えば 01:44 の抜付が最も理想的です。

両者の違い、また、他の抜付動画との違い、読者の皆様はお気づきでしょうか?

私が追い求める抜付とは、鞘払いの音も無く、繰り出される刀の樋音しか聞こえない抜付なのです。

音を発さぬ抜付は非常に難しく、私も毎回理想通りに抜けるわけではありません。何故音がしない方が良いのか? その答えは単純なもので、刀に一切の負担をかけさせないためです。

近頃は速く抜けばそれが居合・剣術だと勘違いしている修行者が目立ちます。勿論速く抜くことも大切なこととは思いますが、まともな身体捌き、鞘引きを身につけていない技量不十分な者が速さに頼ると、以下の写真のようになります。

未熟者による抜付1-1 未熟者による抜付1-2 未熟者による抜付1-3

 

お解かりでしょうか?

まともな修業を重ねていない者による速さに頼り切った抜付では、刀が大きく撓り、正確に狙い定めた位置に剣先が行かないどころか、骨に当ると刃毀れを招き、刀身を曲げてしまいます。

同じ動きを正面からも見て見ましょう。

未熟者による抜付2-1 未熟者による抜付2-2 未熟者による抜付2-3

 

たとえそれなりに速く抜けたとしても、見る者が見れば使えない、侍の真似事でしかないことが判ります。斬撃性が無く、平叩きなので打ち身または打撲程度の怪我しか負わせることはできません。

しかし、悲しいかな世の中の人全てが居合や剣術に精通しているわけではありませんので、速さにごまかされてしまう素人が多いのが現実です。素人でも眼が肥えてくれば自ずと可笑しいことに気付き、本物の古流武術に鞍替えするのでしょうが、それに気付けず数年、十年と続けている夢見る素人がたくさんいます。

悪い見本として丁度良い動画から画像を抽出させて頂きましたが、これは各連盟で居合を修業されている方々にも言えることです。

稽古を重ねていく中で、刀の横手にヒケが多数入っていたり、横手が消えたり、横手が変形したり、鯉口を削ったり、鞘の刃方を削りながら抜付を行う者が居合修業者の99%と言っても過言ではありません。

師匠選び、道場選びの大切なポイントは、私の拙著「最強のすすめ」にも記していますが、本物の抜付ができているか、身体捌きができているかは、その人の刀と鞘を見れば一目瞭然であり、抜付の初太刀で樋音、刃音が出ていない者から学ぶべきものは何もありません。

まともな抜付を身につけたい場合は、まともな抜付ができる者に指導を受けるのが宜しいでしょう。速さでごまかすところからも得るものは何もありません。