修心流居合術兵法誕生の経緯 2

S流(M氏)と袖を別つことになる少し前。それが1年前なのか2年前なのか、記憶力が乏しい私は今すぐに思い出せないのですが、籍を置いていた龍心館吉岡道場を辞しました。

その経緯については拙著『最強のすすめ』に記していますが、抜付での一撃必殺の居合を求め、龍心館での試斬稽古を推奨したことが発端です。門弟の中から「町井を辞めさせろ。」「町井を辞めさせないなら俺達が道場を辞める。」と吉岡早龍師に詰め寄る者が現れたと私は聞いています。

私はかねてより現在の英信流に疑問を感じていましたし、また、既に早龍師伝の英信流を脱却(守・破・離で言う破)しておりましたので、私個人の存在によって師にご迷惑をかけることを避け、自ら師に龍心館を去ることを伝えました。

この辺りの経緯を詳しく知らない人や、悪意ある噂を好む方は、龍心館を破門になっただの、英信流を破門になっただのと、面白可笑しく吹聴されますが、上述の通り吉岡早龍師とは一切の揉め事はございません。ただ一言、道場を辞するにあたり、師には一部の門弟の行動を指して、「今の龍心館は誰が館長か判らない状態にあります」とだけ忠言させていただいたことをハッキリと覚えています。

因みにこの頃、全日本居合道連盟(以下全居連)と折り合いが悪かった早龍師と龍心館は、全居連から日本居合道連盟(以下日居連)に移籍し、それに伴い龍心館の門弟達は昇段試験を受けることなく、全居連で取得したのと同じ段位を日居連から允可されました。これに伴いまして私は“全居連”でも“日居連”でも伍段位の允可を受けたことになります。

龍心館吉岡道場を辞した後は、これもまた拙著『最強のすすめ』に記していますが、妻の助けの下、毎日畳表と向き合う日々を約一年過ごしました。

今でこそ帯刀してからの横一文字の抜付をされる方をちらほら見かけるようになりましたが、私が知る限り、当時は身体を開く事無く畳表を抜付の一文字で両断される方はおられませんでした。身体を捻り、左に45度向いたり、或いは90度向いた状態で、勢いつけて切られる方はおられましたが、それは私が求める抜付ではありません。

結局のところ、誰も私が理想とする抜付ができる方がおられないので、自分自身で研鑽を重ねなければなりませんでした。

抜付を研究する上で大変役立ったのは、M氏から学んだ試斬の基本技術であったことは言うまでもありません。M氏との関係無くして今の私の存在はありません。S流を立ち上げたことで、M氏とは残念な袖の別ち方をしましたが、感謝の気持ちは今も持ち合わせております。

S流M氏の下を辞し、英信流の龍心館吉岡早龍師の下も辞した私は、独立して自身の流派、道場を構える考えなど毛頭無く、当然ながら門弟を募ることなどもしていませんでした。

自分自身だけが居合を楽しめればそれで良い。そんなスタンスであったのです。

そんな頃、刀剣の販売を通じて知り合ったお客様のMさんが私を後押ししたいと申し出られ、私に道場設立を勧められました。

「道場を開設するつもりは無い。一人気儘に居合を楽しめればそれでいい。」

と乗り気ではなく、首を縦に振らない私を、Mさんは彼の自宅兼会社に招き、言葉悪い表現になりますが、ほぼ軟禁に近い状態で説得を続けました。泊りがけも含め3日間ほど彼の自宅で説得され続けたと記憶しています。

Mさんが提案してきたのは、彼を含む彼の会社の従業員全員に私が試斬技術を叩き込み、ある程度の実力がついたところで、それぞれを支部長として道場のフランチャイズ展開というものでした。

「毎月100万程の安定した月謝収入があれば、銀行は1億でも融資してくれる。立派な本部道場も建てることができる。」

そんな甘い言葉に傾いてしまった私は、Mさんとその従業員達に約二ヶ月に渡って試斬技術を伝授することになります。

試斬には真剣が必要です。道場のフランチャイズ計画の下、本鍛錬の良質な軍刀などをかき集め、彼らのために良心的な価格でお譲りしました。当然ながら研ぎ身状態です。

まずは試斬大会で道場の名を轟かせる。その目的のため龍星剣猿田宗家主宰の“国際抜刀道試斬連盟”にMさん達と加盟。当時既に五本横並びでの袈裟と斬上、各種返し業、当時は猿田宗家とM氏くらいしか出来ないと言われていた“※据斬”の技術をも身につけていた私は、猿田宗家のご厚意で試験を受けることなく、国際抜刀道試斬連盟に於いても五段の允可を頂きましたが、当時、人より物斬りが巧いことに天狗になっていた私は、「俺の腕がたったの五段か?」と允可状を見て苦笑したことを覚えています。

※長さ90センチの畳表を巻き締め、地面に据え立てた状態で倒さず斬る斬り方。同様の斬り方を披露される方は他にもおられましたが、斬りやすい高さの台の上に置いて斬るなど、ここで言う据斬とは趣を異としています。

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