12月 2020のアーカイブ
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阿州住正春 平成九年春
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備州長船(以下切) ~実戦を潜り抜けてきた誉傷ある逸品~
鐔の撮影 ~造り手になって考える~
私は仕事として刀剣や刀装具の写真撮影を行っていますが、このブログを拝読されておられる皆様の中には、趣味で御自身のコレクションを写真に納められている方もいらっしゃるかと思います。
今日の記事は私の実子達とスタッフ、そして趣味で撮影されている方への覚書としての意味も込めて記述します。
昨日、長男とスタッフS君に鐔の撮影をお願いしたところ、残念ながら私の意に適わぬ写真ばかりが撮れてしまいました。
長男をはじめとした私の実子に関しては、跡を継ぐ継がないに拘わらず刀剣に対する最低限の知識は持ち合わせて欲しいとかねてより切望しているのですが…
刀剣に限らずなんでもそうだと思うのですが、形ある作品を撮影するにあたって、まず何が一番大切なのか?
それは造り手の立場になって考えること
だと私は考えています。
皆さんも幼い頃、何か造ったり、絵を描いたりして、それを両親に祖父母に見せた事がありますよね?
その時の気持ちを思い出してもらいたいのです。
その作品を作るにあたり、どこが苦労したのか?
その絵を描くにあたり、何を表現したかったのか?
それを的確に見抜いて褒めてもらえた時って嬉しかったでしょう?
今回は鐔のお話ですが、鐔だって同じなんですよね。
自分がこの鐔を造った鐔工だったら、どこに苦労したのか? どこを見せたいと思ったのか?
それを考えれば同じ鐔の写真でも全く異なる物になります。
この二枚は長男とスタッフS君が協同作業で撮影してくれたものです。
何がよくないのかわかりますか?
この鐔は樹齢を重ねた老梅樹を題材にしたものですが、この二枚の写真から題材が老梅樹と気付けますか?
刀の鐔は表面の右側に主たる図柄を彫刻するものです。何故なら士が刀を腰に帯びた際に外から見えるのは、鐔の左側ではなく右側だからです。
上の二枚の写真が左側からも彫りの技術を見せたいと言う趣旨で撮られたものなら良いのですが、肝心の右側からの写真が全くないのです。だから私の意にそぐわなかったのです。
次に私が撮影した同じ鐔の写真を御紹介します。
先に紹介した写真と鉄の色味も異なりますよね。どちらがより鉄質が伝わり、鐔全体の構図も判るでしょうか?
勿論後者の私が撮影したものになります。
こちらの写真では、まず、老梅樹の幹に焦点を当てています。梅樹が成長する過程の中で枝が折れ、それを修復しながら育った様子を巧みな鏨使いで表現しています。作者はまず、この古木の味を表現したかったはずなのです。
続いては枝先に焦点を当てました。
太い幹に対して細々とした枝ではありますが、そこに梅花の蕾がたくさんついていて、これから開花して春の訪れを告げようとしている…
開花した梅花も良いですが、開花後の梅花は散るのみ。作者はこの鐔を刀に添える士が散りゆくのを待つのではなく、これから開花して立派な花を咲かせるようにと祈りも込めているのではないでしょうか?
私は鐔の一枚一枚を撮影する際、そうやって造り手が何を思いそれを手掛けたのかを考えています。
こちらは裏面ですが、焦点は手前ではなく、勿論梅樹の枝に合わせています。この一枚で鐔の仕事振りと厚みも見せることができますよね。
一生懸命撮影してくれた息子とS君には申し訳ないのですが、写真は今から私が全て撮影しなおします。
今日は鐔の撮影に終始することになってしまい、刀の写真撮影はできそうにないな(苦笑