刀屋が集う市場に出向くと、実に様々な刀剣に出逢える。

出来がずばぬけたものもあれば世にいう鈍刀まで実に多彩。

人気があるのはやはり二尺三寸を超える長寸の刀。拵が附属していれば尚最高。競り値も高くなるものです。

そのような長寸の刀を手に、刀屋さん達がよくこう言われます。

「反りが浅すぎるなぁ」
「反りが深すぎるなぁ」

なぜこのような言葉が出るかといえば、世の居合抜刀を嗜むお客様方が、皆揃って六分反りを好み、それを基準とするからでしょう。

そのため長寸刀であっても有名工の作品でなければ、反りが深いもの、浅いものは比較的安く仕入れることができます。
そのような刀を狙う私にとっては御の字でありますが、正直な心中を語りますと、居合抜刀などを嗜む武辺の者が、反りの深い浅いで刀を選り好みするのは如何なものかと思うのです。
勿論、自分好みの一刀と言うものがあるとは理解しますが、私はこれまで刀を選り好みして使ったことがないものですから、そこのところの心境が解らないのです。

手元にある得物を使う。ただそれだけしか考えたことがありません。

反りが深く、試斬稽古に不向きな刀であっても、手の内次第で六分反りの刀と変わらず使うことができます。
反り浅目の刀は姿が日本刀らしくないと思われるから人気がないのかもしれませんが、素人が使っても刃味鋭いのは寛文新刀のような反りが浅い刀です。

切先が小さいと頼りないと思う人も、先幅が広いほうが良く切れるという人もおられますが、道具頼りではいけません。

私が普段使う将平は一般的な現代刀に比べると物凄く細身ですが、私はこれで隙間を空けて五本並べた畳表を袈裟にも切り上げにもします。※密着させた多本数と隙間を空けた多本数では隙間を空ける方が難しいのです。
刃肉平肉は豊かについており、けして肉は削ぎません。

ところが物斬りをされる方は、何故か平肉と刃肉を枯らすよう研師に依頼するのです。

平肉と刃肉を枯らしては、刀としての機能を発揮できません。
減らした肉は元に戻すことはできないのです。人のように食っちゃ寝してるとまた肉がつくというわけではありませんからね。

肉を削ぐのではなく、入念に内曇砥を刃先にかけてください。そうすれば肉に対する考えは変わるでしょう。
安い研磨ではなく上研磨の改正またはさっと内曇をかけたくらいで止めてもらってお使いになると、驚く程切味が鋭く変わることに気付かれるはずです。

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